子育てのための医療 | ならざき小児科 - Part 2

福岡市東区和白 医療法人育慈会 ならざき小児科

子育てのための医療

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クマさんの、少しだけ自分の時間をください

 今クマさんは、満天の星が見え、鹿も出没する兵庫県の高原で最先端の治療を受けています。鼻の中にガンができてしまったのです。幸い九大耳鼻科の先生から現時点で最良の治療方法を紹介していただき、兵庫県立粒子線医療センターで炭素イオン線(炭素の原子核)を照射する治療を受けています。約5週間の入院ですが、治療の副作用が少なく、照射治療以外の時間は自由にできるので、週末は福岡に戻って土曜日だけでも診療をするつもりです。

 このようなことを公表することについてはずいぶん悩みましたが、土曜日だけ診療すること、粒子線治療の副作用で顔にやけどのような赤みや色素沈着がしばらく残ること、粒子線治療が終わった後も検査や他の治療のため時々代診の先生に診療していただくことなど、皆さんにつじつまの合った嘘を通し続けるのは困難です。また、これからのクマさんの生き方や当院の診療体制を皆さんに理解してもらうためにも、隠さないほうが良いと判断しました。

 人間はいずれ死ぬ、だから死を意識しながら生きるべきだ。そうすることによって良い生き方ができる。というのは、クマさんのずっと前からの持論です。開院5周年記念コンサートの時も、皆さんにその話をしましたね。ですから、生き方自体は何も変わりませんが、今後は僕の人生の仕上げの作業を少しずつ進めて行くため、これまでより少しだけ余計に自分の時間が必要です。

 この「ぞうさん病院(ならざき小児科)」と「ぞうさんの家」は、クマさんが手塩にかけて築いてきたユートピアですから絶対に存続させます。開院10周年の節目を迎える来年8月には、記念事業(チャーリー永谷のコンサート、記念誌の出版)を計画していますが、是非とも成功させたいと思っています。診療面では、自作電子カルテ「ドクター・ベアー」を第2世代にバージョンアップしたいですし、電子病児記録「こぞうくん」も全国の病児保育施設で使えるように手を加えていきたいと思っています。原稿を書く時間も欲しい。こどもたちのためのぞうさん病院を舞台にした童話「ドクター・ベア」、全国の小児科医のための「パソコンを使えば小児科診療はこんなにすごいよ、楽しいよ」、クマさんの小児医療に対する思いを綴った「理想の小児科クリニックを目ざして」の3つは書いておきたいのです。長年苦労をかけ続けましたが、生涯のパートナーである寅さんを、ずっと前からの約束だった沖縄、韓国、ヨーロッパに連れていってあげたい。それなら、韓国語、ドイツ語も少しは勉強したい。これだけ全部こなすとなると、結果的には結構長生きできそうですね。

 というわけで、これまでのように帰宅するのが毎日22〜23時という生活では人生仕上げの作業ができませんので、平日は19時以後、土曜日は13時以後診療しないという体制にさせていただくことをご了承ください。

 これからは、クマさんにとっては1日1日が宝物です。でも、これはすべての人にとっての真理でもあるんですよ、本当はね。              
(2008年7月24日)

クマさんの、恐怖のゴロン

 すっかり夏めいて、半袖の季節になってきました。NCCの中庭ギャラリーはいろんなジャズメンとそれを取り巻く動物とが渾然一体となった飾りになっています。見ていて飽きない、寅さん入魂の逸品で、これまでのベスト3に入るのは確実のギャラリーです。病気でないこどもたちも通りかかったらぜひ見に来てね。

 さて、今回はかかりつけのこどもたちならすぐにピンと来る恐怖のゴロンの話です。

 当院では病気の原因(病原体)を明らかにするためによく迅速検査をします。その時、こどもたちには「どんな病気か調べるからベッドにゴロンして」と言って横になってもらい、のどの奥や鼻の奥から検査の材料をとらせてもらいます。多少痛みを伴い不快な検査ですから、1回でも受けたこどもにとって「ゴロン」は恐怖の言葉なのです。「先生、今日はゴロンはしないよね」と言いながら診察室に入ってくるこどもも結構います。寅さんは、どうしたら痛みを最小限にしてスムーズに検査できるかを説明するために、のどの絵を描いた紙芝居を用意しています。理解できた大きいこどもたちは上手に検査を受けているようですが、小さいこどもたちには無理ですね。ただひたすら押さえつけて短時間ですませるしかありません。
 このゴロンは、こどもたちにとっては当然ですが、医者にとっても恐怖の処置です。なぜなら、時々眼鏡や顔を目がけて痰が飛んでくるのです。痰が口の中に飛び込むこともあるし、どうかすると指をかまれることもあります。ですから、クマさんも心情的にはできればやりたくないのです。

 それにもう一つ、恐怖とまでは言いませんが、検査をどんどんすることは経営上大きなマイナス要因になるのです。当院は保険診療を、大部分の小児科クリニックと同様、包括診療で行っています。この仕組みでは、3歳までのお子さんの診療費は初診と再診の2種類しかなく、いくつ検査しようが、点滴しようが、クリニックが得る収入は何もやらない場合と同じなのです。検査も処置も材料費が結構しますので、検査や処置が多いことは利益率を下げます。下手すれば赤字です。それに、検査をすると人手もかかるし診療時間もかかります。診察した所見だけで「アデノウィルス感染症ですね」と診断する方が、時間も材料コストもかからないので、経営的には賢いのです。

 しかし、NCCは開院以来ずっと経営的なことより診療の質にこだわり続けてきました。感染症に関して質の高い診療とは、確実な診断をした上で適切な治療や指導を行うことだと考えます。不要な投薬を避けたり、抗生物質を長期間継続してもらったり、出席停止を適切な期間してもらったり、症状急変に備えたりするためには、できるだけ確実な根拠が欲しいのです。

 病原体の診断をするための各種迅速検査を日常診療に使えるようになってから、感染症を診る目がずいぶん変わってきました。従来の教科書的な症状だけではなく非典型的な症状を示すこともあるし、インフルエンザと溶連菌感染症、アデノウィルス感染症と溶連菌感染症、など混合感染も珍しくないことを知りました。ですから、症状の経過や診察所見で合点がいかない時には、2種類以上の迅速検査と血液検査をすることも少なからずあります。周囲の状況や診察所見だけでわかる典型例では不要ですが、非典型例や原因不明のときには、絶対に検査が必要だと思います。

 というわけで、病原体診断の新しい検査方法が開発されない限り、こどもたちにとってもクマさん・寅さんにとっても「恐怖のゴロン」がNCCからなくなることはないでしょう。こどもたち、お互いに我慢しようね。
(2008年5月25日)

クマさんの、麻疹・風疹混合ワクチンの話

 もうすっかり春。桜も咲き始め、入学式を前にはりきっているたくさんのこどもたちのせいか、空気にさえ何だかワクワクさせるような気配を感じてしまいます。

 この春小学校に入学するこどもたちは、ちゃんと麻疹・風疹混合ワクチン(以下MRワクチン)の第2期接種を済ませたことと思います。中間報告では福岡県は全国最低の接種率だったけど、駆け込み接種で少しは挽回したのかな?ちょっと心配。今度年長組になるこどもたちは、先輩たちのまねはせず、早めにやっておこうね。

 今年から5年間、中学1年生と高校3年生に相当する年齢のこどもたちにMRワクチンの公費接種(それぞれ第3期、第4期と呼ぶそうです)が行われることになりました。世界に冠たる予防接種行政のおかげで、日本の感染症対策は先進国の中では最低。麻疹輸出国日本はいつも外国から批判の的です。国がやっと重い腰を上げて、MRワクチンの2回接種を始めたのが2年前。今年小学校2年生になる学年以下のこどもたちは公費で2回接種を受けることになったわけです。今度は、5年かけて、今年小学校3年生になる学年から高校3年生になる学年までのこどもたちの免疫を高めようという作戦です。

 もちろん1歩前進ではありますが、5年たたなければこの作戦は完了しないので、その間この年齢層の中でも流行がまだ少しは起こるでしょう。また、今年高校を卒業した学年よりも上の年齢層に対する公費接種は予定されていませんので、今後も成人の麻疹は発生が続くでしょう。風疹抗体価が低い妊婦さんが増加しているということもあり、今後は成人でのMRワクチン接種が問題になってくると思われます。

 麻疹はとっても怖い病気です。合併症の頻度も程度も高く、感染力が強力です。先進国ではほぼ撲滅されたこの病気ですが、この日本ではまだ多数発生しているのです。亡くなっているこどももいます。福岡県の発生動向調査でも毎週10〜20人以上の発生が見られています。当院でも昨年は7人の麻疹患者を診ました。身近なところで発生している怖い感染症ですが、予防接種をすれば98%以上はかからずに済むのです。2回接種すればより確実な免疫が獲得できます。

 国はやっと麻疹撲滅に本腰を入れ始めたのですが、第2期のMRワクチン接種率を見る限り、保護者の間にこのワクチンの必要性に関する理解が広がっているようには決して思えません。概して、この国は感染症の予防に対して官も民も積極的ではありません。先進国とは雲泥の差です。うちの診療所に来る韓国、台湾、パラグアイのこどもさんの母子手帳を見ても、麻疹・風疹・ムンプス混合ワクチン、Hib(インフルエンザ菌b型)ワクチン、肺炎球菌ワクチンを済ませています。日本がこのような後進国に甘んじているのは、国が一番悪いが、マスコミ、小児科医、それに保護者にも責任があると思います。僕は、この話をお母さんや実習に来た医学生たちに毎回毎回しています。耳がタコになってしまったお母さん、ごめんなさい。

 僕には国を動かすことはできませんが、お母さんたちの考え方を変えることはできると信じたい。せっかく国が2回目の接種機会をやっと用意したのに、その権利を放棄してしまうなんて、どうかやめてください。こどもたちのために、進んでワクチンを受けさせてください。お願いします。

(2008年3月31日)

クマさんの、NCCの診療に時間がかかるわけ

インフルエンザが少しずつ増えてきました。しばらくは、インフルエンザの診断に気を使う時期が続きそうです。どうしてかですって?それは、インフルエンザの診断というのは意外と面倒だからです。
 10年くらい前までは、冬場に高熱、グッタリで受診し、かぜ症状が少なくのどの所見も軽い、しかも周囲に高熱が出ている人がいるという患者さんは、迷わずインフルエンザだろうと診断していました。しかし、迅速検査が導入されてからはインフルエンザという病気に対する考え方が変わってきました。インフルエンザなのにグッタリ感がなく元気が良い子もいます。感染性胃腸炎みたいに消化器症状が非常に強い子もいます。反対に、見た目にはインフルエンザなのに検査で否定され、追加検査でアデノウィルス感染症と診断されるこどもさんもいます。インフルエンザが強く疑われるけれども、のどの所見が激しいので検査してみると、インフルエンザと溶連菌の混合感染だとわかるケースも年に数例は経験します。季節も冬とは限りません。5月の連休あたりまで流行が続くことがあることもわかってきました。

 というわけで、病歴・症状・診察所見などが典型的なケースは必要ありませんが、周囲にまだ流行がない場合や周囲に流行があっても症状・診察所見が典型的ではない場合は、必ず検査をする必要があります。特に、タミフルの使用に関してデリケートにならざるを得ないこの時点では、余計に診断を正確にする必要があると考えます。

 迅速検査で診断を確定できる病気は、インフルエンザ以外にも結構あります。溶連菌感染症、アデノウィルス感染症、RSウィルス感染症、マイコプラズマ感染症、ロタウィルス感染症などです。昔なら全部「かぜ」ということになってしまったかもしれません。でも、今は迅速検査でどのかぜか診断を確定して、一番ふさわしい治療や指導をすることができます。これは患者さんにとって大きな恩恵ですが、医者にとっても自分の診断能力を鍛えたり確かめたりできるという意味で自己研鑽の大いなる武器なのです。クリニック実習に来る医学部の学生に僕がいつも言う台詞ですが、今はこういう診断道具があるから「かぜ医者はおもしろい」のです。

 迅速検査に限らず、当院では必要と思われる検査や処置は必ずします。しかしながら、検査や処置をすると時間がかかります。結果の説明もしますので、何も検査しない場合に比べるとずいぶん時間がかかります。皆さんの目にふれても恥ずかしくない病歴や診察の記録もきちんと残しています。他にも、救急患者への対応や、他院への入院手配なども時々ありますので、時期によっては予約時間から1時間くらいずれてしまうこともあります。

お母さん方は待たされて迷惑と感じられるかもしれませんが, 我々スタッフはこども達のために最善の診療をしていることを誇りに思っています。それでいて待ち時間を1時間以内に抑えているのはすごいな、とクマさんは実は内心思っているのです。                     

(2008年1月31日)

クマさんの、匂い攻撃に弱いの

 先日電子カルテの会議のため久しぶりに東京に行ってきました。クマさんが参ってしまったのは地下鉄の車両に立ちこめる匂いでした。座席に座れたのは良かったのですが、右は女性、左は男性(それも結構中年の男性)、両方からの香水攻撃です。気分が悪くなり思わず立ってしまったのですが、立っていても乗客が入れ替わるたびに実にいろんな匂いが漂ってくるのです。「こりゃ、福岡の方がよかバイ」と思わず漏らしてしまいました。しかし、その1週間後には天神(福岡)のとあるビルでも同様の経験をしたので、「こりゃ、昔は良かったバイ」ということがわかりました。

 最近、香水を使う方が多くなってきたようです。診察室でも強烈な香水を嗅がされる羽目に陥ることが時々あり、クマさんはその度にのどが痛くなり、声がかすれます。また、強烈なタバコ臭がするお母さんやお父さんも苦手とするところです。香水に包まれたお母さん、タバコの燻製みたいなお父さんが診察室から出られると、すぐに窓を開けて換気します。狭い感染症外来のブースでそのようなお母さんと同室する時は大変です。息苦しくて、冗談ではなくホントに酸素ボンベが欲しくなります。

 ちなみに熊はただ大きいだけでなく、聴覚も嗅覚も鋭敏なのです。さらに、もう30年以上も臨床医をやっているクマさんは、鍛えに鍛えられた診察マシンです。五感のすべてを使い、さらには第六感まで駆使して診療しています。嗅覚ももちろん大切です。腐敗臭、酸臭、アセトン臭などを感知する、嗅覚を用いた診断方法は洋の東西を問わず医者の基本技術の一つなのです。優秀な臨床医たることを心がけるクマさんの大切な道具の一つ、嗅覚センサーを破壊する匂い攻撃はあなたのお子さんの治療にとって妨げになるかもしれませんよ。これから繊細な嗅覚を育てていくこどもさん達にとっても、有害かもしれませんよ。それに、そんな匂いに包まれなくても、お母さん達は十分すぎるくらい魅力的ですから、診療所に来られるときは微香にしてください。お願いします。

                      (2007年12月1日)

クマさんの、病児保育始めるよ

 9月も連日30℃を超える日が続いたので、炎天下で運動会の練習を頑張ったこどもたちは大変だったと思います。軽い熱中症にかかったこどもたちも少なからず居たようです。こどもたちの健康を守るためには、地球温暖化に合わせて運動会の開催時期も考え直さないといけないかもしれませんね。

 さて、当院では来年1月から病児保育を始めることになりました。病児保育とは、病気にかかっているあるいはまだ病気の回復期にあるこどもさん(ここでは病児と呼びます)を預かって世話をすることです。もちろん、入院が必要なほど病状が重いお子さんを預かることはできませんし、家庭で世話ができる環境にある病児を預かる必要もありません。そこで、対象になるのは保護者が勤務などの事情で家庭での育児が困難な病児(0歳から小学校3年生まで)ということになります。

 病児保育は平成7年から国の事業としてスタートし、国が市町村を補助して「乳幼児健康支援一時預かり事業」として行われています。福岡市は比較的早くからこの事業を開始し、すでに各区に1ヶ所以上病児保育施設がありますが、このたび東区にも2つ目の施設をオープンすることになりました。したがって、当院の病児保育施設「ぞうさんの家」は福岡市から委託を受けて行う事業というわけです。決して採算のとれる事業ではありませんが、働くお母さんやちょっと子育てに不安を抱えているお母さんたちに、病気のお子さんを預かったりケアのしかたを指導したりすることで、お役に立ちたいという気持ちで開室することにしました。当院のシンボル、青いぞうさんが頼りがいのある鼻でこどもさんを優しく包み込んでいるイメージそのままの事業だと思っています。

 そして、どうせやるならひそかに日本一を狙うのがNCCの流儀です。4月以来満を持していた寅さんが、管理者となって臨機応変、辣腕を振るいます。休診中には、スタッフ全員が病児保育室の実習に行ったり、病児保育の学会に参加したりして勉強してきました。また、新たに医療保育士をめざすフレッシュな保育士もそろえ、病児保育、外来保育を両輪として、質の高い保育看護を作り上げるつもりです。また、電子カルテと同様に、預かるこども達の病状や保育看護の記録が効率的に残され、スタッフと家族が情報を共有できるよう、自作の電子保育日誌を大いに活用するつもりです。また、病児保育室の2階にはミーティングルームを作りますので、これまで冬場はお休みしていたNCC育児教室が毎月開催できるようになります。このスペースは普段は地域の育児サロンとして活用してもらうのが、寅さんの夢です。

 なお、施設の建設作業が始まると、駐車場が狭くなり皆さんにご迷惑をおかけすることになりますが、ご協力をよろしくお願いします。

(2007年10月1日)

クマさんの、僕はロボ・ドック

 クマさんは、5月の連休明けから急に激しい腰痛が出現。まったく立てない、歩けない状態になり、そのうち高熱まで出始めて12日から入院となりました。検査の結果、「化膿性脊椎炎」、つまり背骨にばい菌が入り炎症を起こす病気と診断されました。突然の休診、それも3ヶ月近くに及び、皆さんには多大なご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳なく思っています。また、この間たくさんの方々、こどもたちから激励の手紙やメールをいただきました。大変うれしく思いましたし、闘病の励みにもなりました。本当にありがとうございました。この場を借りて、お礼を述べさせていただきます。

 今はもう歩ける状態まで回復しましたが、階段昇降や重いものを持ったりするのはまだ困難です。今後も2ヶ月くらいは背骨を保護するためごっついコルセットをしなくてはいけません。動きもぎこちないので、ロボットみたいに見えることと思います。映画のロボ・コップ(ロボットの警官)ならぬ、ロボ・ドック(ロボットの医者)という次第です。

 休診中もただ闘病していた訳ではありません。予約・受付システムを全面的に更新したり、電子カルテの手直しをしたり、1年分のCDメニューを作ったりとNCCの進歩は止まっていません。

 診療所のスタッフは、一丸となって、危機管理マニュアルを完成させる作業をしました。院内感染や医療事故など、診療所で発生する可能性があるいろんな種類のトラブルをどのように防止するか、起こったらどう対応するか、どう記録を残して今後の教訓とするか、などを体系的にまとめました。これまでもマニュアルはありましたが、時間ができたのをいい機会に全面的に見直し、完成度をより高め、スタッフの意識も高める作業をしてもらいました。これは、患者さん達からは見えにくい部分ではありますが、診療所や診療の質を高めるための大事なシステムと考えています。

 こんなに長い間診療もせずに考え事ばかりしたのは生まれて初めてでしたが、考えてみれば、診療所にとって長期に休診すること以上の危機はありません。こういう危機も回避できるよう対策を講じておかなければ、と強く感じ入ったクマさんでした。皆さん、長いこと休んでしまって、本当にごめんなさい。

(2007年7月31日)

クマさんの、電子カルテの話

 皆さんご存知のように、当院のカルテは電子カルテです。それも、世界でただひとつのクマさん手作りの電子カルテです。見かけは素人っぽいですが、機械的なイメージを避けるため優しい色使いにして、こどもたちが見て楽しめるキャラクターをカルテの一部に配置したりしています。機能的には、その子の周囲でどんな感染症がはやっているかがカルテの一部に表示されたり、成長ぶりを標準と比較したり、特定の検査データを瞬時に並べて表示したり、薬の処方量やワクチン接種量を自動計算したりできて、いわば小児科らしい機能をたくさん備えているのです。レイアウトも好きなように追加できるので、よく使う紹介状、検査データ記録、診断書、証明書、説明用パンフレットなども、診療記録を入力している間に自動的にでき上がるようにしています。また、説明用スライドを瞬時に呼び出したりもできます。

 でも強調しておきたいのは、NCCの電子カルテは診療する自分のためだけではなく患者さんのためでもあるということです。「カルテ開示」という言葉を耳にした方も多いのではないかと思いますが、医療機関は求められた時にはその患者さんのカルテを閲覧やコピーといった方法で開示する義務があるのです。でも、従来のカルテは医師がメモ的に英語やドイツ語混じりの単語を羅列しているものがほとんど、しかも乱筆で書いた本人が何と書いているのかわからないと言った笑い話も日常茶飯事です。そのようなカルテを開示されても、翻訳や説明をしてもらわないと、患者さんには何が書いてあるのかさっぱりわからないでしょう。

 当院の電子カルテは全部日本語表示です。症状の経過を記録した部分(病歴)はできるだけ文章にして入力しています。診察後の評価や検査・治療方針の部分にも日本語で入力しています。メモ的にならないように努めています。これは、すべて患者さんや保護者に読めるように配慮しているからです。つまり、求められた時に開示するのではなく、診療中から患者さんにもわかるカルテを開示したいのです。クマさんは、カルテというものは患者さんや保護者と共有すべき医療情報の記録だと考えています。当院での診療に慣れたお母さん方は、よく電子カルテを見ています。僕が入力した病歴を見て「そこはちょっと違いますよ。頭が痛くなったのは7日からですよ」、「この前の溶連菌感染症は去年の5月なんですね」、「この子の幼稚園では手足口病がはやっているんですね」、「3種混合ワクチンの追加接種はもうそろそろですね」といった会話を交わせるのも、日本語ベースの電子カルテならではのことですね。

 電子カルテに批判的な人たちは「モニター画面ばかりみて患者さんの顔を見ない」とよく言います。しかしクマさんは、医療情報を共有して正確に残すために、医師と患者・保護者が一緒にモニター画面を見ることは一歩進んだ関係だと思います。もちろん、診察の時にいやというほどこどもと見つめ合って、微笑んで、冗談言って、たっぷりヒューマンコンタクトをとるのは小児科医ですから当たり前ですが・・・

(2007年4月1日)

クマさんの、冬の発表会はやめよう

 インフルエンザの流行が始まりました。毎日10~20人以上ものこどもたちがインフルエンザで来院します。インフルエンザは空気感染しますので、その感染力の強さはダントツです。症状としては40℃前後の高熱や頭痛、筋肉痛、関節痛それに強い倦怠感が特徴で、日頃元気なこどもたちもグッタリしてしまいます。さらに、熱性けいれん、中耳炎、肺炎、筋炎などを合併することがあり、とどめは恐ろしい脳症や心筋炎まで起こすこともある、病毒性の強い感染症なのです。

 ワクチンには、その冬に流行することが予測される3つの株(A香港型、Aソ連型、それにB型)が入っています。予測株は毎年だいたい的中しているのですが、インフルエンザ・ウィルスは年々変異して姿を少しずつ変えていくので、ワクチンの効果は万全ではありません。だから、ワクチンを受けてもインフルエンザにかかる人がたくさんいるわけです。でも、かかる可能性は多少なりとも減少しますし、重症化するのを予防できることは確かめられています。他に有効な予防法がない以上、毎年ワクチンを受けて流行に備えることは理にかなったことです。特にかかった場合に重症化しやすい老人とこどもたちは、ぜひとも受けるべきです。

 今はタミフルという薬があって、使えば1~2日で解熱してすぐに元気になることが多いのですが、内服した後に窓から飛び降りたり、道路に飛び出したりといった異常行動がみられたケースの報告が相次ぎ、タミフルの副作用ではないかと疑われました。調査の結果、タミフルの副作用と結論づける証拠はないということになりましたが、慎重に使用する必要があります。また、インフルエンザといえども時間がたてば自分の免疫力で回復することができるウィルス感染症だから、一律にタミフルを使用する必要はないという意見もあります。したがって、タミフルもどちらかといえば使いにくい雰囲気が漂っている薬と言えるでしょう。

 クマさんは長年の勤務医生活のなかで感染症で亡くなったり重度の後遺症が残ってしまったこどもたちをたくさんみてきましたので、最悪の結果は防げるものは防ぎたいというのが、病気に対する基本的なスタンスです。ですから、ワクチン接種はどんどん勧めますし、タミフルも注意しながら使います。しかしそれとともに、こんなに怖いインフルエンザのまん延を防ぐ努力を怠っているとしか思えない学校や保育所・幼稚園、それに一部の保護者の方達へ強く訴えたい、お願いしたいことがあります。

 学校保健法では、解熱後も2日間は出席停止と定められています。タミフルを内服して解熱したばかりの人は、まだたくさんウィルスを持っているので、強い感染源なのです。熱が下がったからといってすぐに登校させるのはやめましょう。また、学校保健法では「伝染病予防上必要があるときは、臨時に、学校の全部または一部の休業をおこなうことができる」と定められていますが、福岡市教育委員会の「学校管理運営の手引」によれば、欠席率が平常時より急速に高くなった時及び20%を超えた時、または罹患登校者が急速に増加した時及び30%を超えた時に、時期を失することなく休業(学級閉鎖または学校閉鎖)をするのがよい。休業期間は疫学的見地から最短4日間とすることが望ましい、とされています。ホレボレするような素晴らしい指針です。でも、守られているとはとても思えません。生徒の健康のためですから、法律やルールはぜひ守って欲しいものですよね。

 よくこの時期に音楽発表会や保護者参観といった行事が催されますが、閉め切った狭い空間に人がたくさん集まって長い時間を過ごすのは非常に好ましくありません。たった一人でもインフルエンザの人がいれば、翌日にはあっという間に大流行が始まります。こういう行事はインフルエンザの流行期(12~2月)を外して行って欲しいものです。ましてや、「せっかく練習してきたんだから、熱があっても来れそうだったら参加してください」なんてのはアンビリーバブル(信じられない)ですね。

(2007年2月10日)

クマさんの、たかが1分、されど1分

 ずいぶん寒くなってきました。インフルエンザこそまだありませんが、感染性胃腸炎、溶連菌感染症、水痘などの感染症が増え、その他のかぜも多いので、小児科の外来は1年でも一番忙しい時期になってました。当院でも、普段は1時間に10~12人の診療枠をこの時期には14~16人に増やさざるを得ません。待ち時間をできるだけ30分以内におさえるため必死の努力をしていますが、皆さんのご協力も必要です。そこで、今回はクマさんから皆さんへのお願いを書いてみます。
 冬場は1人4分前後で診療するわけですが、話を聞いて診察し、診断を下した後に処方して説明するという作業を4分で済ませるのは結構大変です。検査や処置をするとなるとさらに時間がかかります。容態の悪いこどもさんの救急処置や、入院依頼・紹介状作成に時間をとられることもあります。したがって、この時期のクマさんはそれこそ1秒も無駄にしないよう心がけて診療しています。

 診療の質を落とすことなしに、診療時間6分を4分にするためにできることは何でしょう?話を聞くこと(病歴を取ると言います)、診察は正しい診断のために一番重要なポイントですから削れません。ただ、メモを見ながら病気の経過を要領よく説明してくださるとホントにありがたいです。処方する作業は、普段から電子カルテで極力効率化しているので、短縮できません。となると、説明です。普段は懇切丁寧な説明・指導を心がけていますが、この時期は看護士の説明やパンフレットで代用することもやむなし、と考えています。また、診察のついでに予防接種や育児のことなどの相談を受けることも多いのですが、この時期は急がない相談はメールでお願いしたいと思います。必ず返事を差し上げます。最後に、診療以外のことに無駄な時間を取られないことも重要です。順番が来て名前を呼んでもなかなか診察室に入って来られない、診察の時にすぐに胸やおなかが出せない、診察が終わった後診察室でゆっくり衣服を整える、どうかするとついでにオムツを交換する、その30秒がもったいないのです。

 予約のルールを守っていただくのも大切です。ある診療枠の患者さんが2~3人まとめて遅刻されるとどうなるでしょうか?クマさんが診療できない時間がポッカリとできてしまい、その後は1人当たりの診療時間をさらに短縮しなければ遅れが取り戻せなくなります。キャンセルの連絡なしに来院されないドタキャンは最悪です。ホントはその時間に診てもらうことができたはずの他のお子さんにとって大いなる迷惑です。当院の電子カルテにはドタキャンの履歴もすべて残っていることを披露しておきましょう。

 病気が多いこの時期ですが、こどもたちのためにお互いに協力・努力し、できる限りスムーズな診療体制を築いていきましょう。

(2006年12月1日)

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