(4月から高校教師として歩み始めた子寅からの寄稿)
「『君には無理だよ』という人の言うことを聞いてはいけない。決して諦めては駄目だ。自分のまわりをエネルギッシュでしっかりした考え方を持っている人でかためなさい。プラス思考の人でかためなさい。近くに誰か憧れる人がいたら その人にアドバイスを求めなさい。君の人生を考えることが出来るのは君だけだ、君の夢がなんであれ、それに向かっていくんだ。何故なら、君は幸せになる為に生まれてきたんだ」
元プロバスケットボール選手であるマジック・ジョンソンの言葉です。読んでいて、やる気や勇気が湧いてくるような気がします。
これとは対照的な、こんな言葉をこどもに投げかけてはいませんか。
「朝なんだからさっさとしなさい!」、「夜遅くまで起きているから・・・」、「テレビなんか見てないで宿題をしなさい!」、「だから勉強ができないのよ」 などなど・・・
では普通に朝起きて学校に行き、宿題を終わらせてテレビをおとなしく見ているときはどんな言葉かけをしていますか。当たり前と思って何も言わないままにしていませんか。
アドラー心理学の「勇気づけ」が近ごろ教育界で注目されています。アルフレッド・アドラー(1870 – 1937)は人の持つ劣等感を重視しました。心の発達はこの劣等感の克服にあると考えました。アドラーによれば、勇気をくじき、劣等感を生じるような言葉は、心の発達を阻害します。こどもにはなるべく、勇気を与えるような言葉かけ、すなわち勇気づけを行うのが望ましいのです。
勇気づけの第一歩は適切な行動を当たり前と思わずに勇気づけのきっかけにすることです。
子どもが朝寝坊せずに起きてきたら、「おはよう、元気に起きてきたのね、お母さんも気持ちいいなあ」。食事の時、ダラダラ食いの子どもがきちんと食べてくれたら、「ごはんをおいしそうに食べてくれてお母さんうれしいなあ」。他にも、兄弟げんかもせずテレビを見ている、お風呂に入った、など当たり前の行動に注目・関心を向けると、このような言葉がすんなり出てきます。
同時に、こどもの欠点は長所の裏返しであることにも気づくはずです。落ち着きのないこどもは見方を変えれば、好奇心が旺盛です。のんびりしたこどもは、何をするにも丁寧でおだやかであるというよいところがあります。
このように別の角度から見ることを「リフレーミング」といいます。リフレーミングを行うと、こどものよいところを見つけることが楽しくなってきます。
では、問題行動や不適切な行動に対して、勇気をくじかないように、どういう言葉かけをすればよいのでしょうか。アドラー心理学は不適切な行動に対してまずは無視する方略をとります。もちろん、その子の人格を無視するのではなく、不適切な行動だけをさりげなく無視します。その代わり、その子の適切な行動については大いに認め勇気づけをするのです。これを「選択的注目」といいます。
それでもやっぱりこどもの不適切な行動を注意したいときはありますよね。そんなときは「I(アイ)メッセージ」という話方を用います。Iメッセージと比較される話方が「YOU(ユー)メッセージ」です。
「あなたはがんばらなければならない」「あなたはどうしていつもそうなの?」「お前というやつは!」などがYOUメッセージになります。Iメッセージは次のように作ります。
1)「When~のとき」で起きていることを言い、
2)「I feel~と感じる」で自分の気持ちを伝え、
3)「Becauseなぜなら~」でなぜ自分がそう感じたかを説明します。
「1)君が家の中でボール遊びをすると、2)お母さんは困るなあ、3)なぜならガラスが割れてお家がこわれちゃうから」。この場合、続けて選択肢を与えることも有効な手段となるでしょう。「ボール投げは外でするんだよ。家の中で遊ぶんだったら別のことをしようね。どっちにする?」。
アドラー心理学を通して子どもを勇気づける言葉かけについて考えてきましたが、その根本は大人が自分自身のあるがままを受け容れ、一人の人間として大切にするという点に還元される気がします。大人が自分を肯定的に受け容れてこそ、子どもを肯定的に見ることができ、勇気づけることができるのではないでしょうか。
子どもを勇気づけられる親となり、子どもにとってのマジック・ジョンソンになってあげたいものですね。
(子寅2010年3月15日)