当院の感染外来は伝染力の強い病気の診療をおこなう部屋です。待合室や診察室での感染を予防するために作りました。少々狭い空間ですが、2つの部屋それぞれにエアコンと換気扇をそなえ、完全に隔離できるようになっています。受付・診療・会計・薬の説明、トイレのすべてをこの感染外来の中で済ますことができ、一般の患者さんとは動線が交わらないようにしています。
開院以来この部屋を使わない日は珍しいくらいで、中には2部屋とも使用中にもう一人患者さんが来られ、しばらく車の中で待っていただいたこともありました。予想以上の利用頻度です。開業するまでは、日本のこどもたちは予防接種をどんどん受けているからそんなに使うことはないだろうと思っていたのですが、とんでもない見当違いでした。
平成13年2月10日現在での感染外来利用者の内訳は、(1)流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)のべ110/実数59人、(2)水痘(水ぼうそう)46/22人、(3)溶連菌感染症37/12人、(4)麻疹(はしか)14/8人、(5)手足口病6/6人、(6)伝染性紅斑(りんご病)7/3人です。このうち入院したお子さんが2人いました。
これに関連して、僕が「そんなバカな!」と思ったことを紹介します。
まず第一は、おたふくかぜにかかったばかりのお子さんに「熱が下がったら発表会に出てきてね」と指導する幼稚園があったこと。予想通りの大流行となりました。耳下腺が腫れている間はウィルスの排泄が多いので他の人にうつしやすく、学校保健法で腫れがひくまでは出席停止とされているのに、そんなバカな!
次に、園児の間で流行している感染症の情報を保護者に連絡しない保育園があったこと。麻疹や水痘は、患者と接触して数日以内ならワクチンの緊急接種で発病を阻止できます。発病を確認したら早急に連絡すべきなのに、そんなバカな!
最後は、「どうせかかるなら早くかかった方がいい」と、よりによってNCCの感染外来に入っているおたふくかぜのこどもさんと我が子を同室させたお母さん。わざとうつすなんて、そんなバカな!
どれも、「おたふくかぜや水ぼうそうは軽い病気だから」という気持ちに根ざしたものでしょう。
でも、おたふくかぜは頻繁に髄膜炎を合併しますし、1万人に1人くらいですが高度難聴が残ります。こども病院時代には、脳炎を合併して亡くなったお子さんをみたこともあります。水ぼうそうでは脳炎(小脳炎)をときどきみましたし、脳梗塞発病例もありました。仮に頻度が1万人に1人であろうと、身近なこどもがそのような合併症にかかるようなことがあれば、大人の考え方もきっと変わることでしょう。
最後につけ加えておきますが、普通の軽い経過のおたふくかぜや水ぼうそうであっても、かかっているお子さんにとっては大変不快な状態ですし、幼稚園や保育園を1週間も休ませる親御さんにとっても大変迷惑な状態だと思います。
はしかの撲滅に関して言えば、日本は先進国の中で最も遅れた国です。その根底には、感染症に対する意識がまだまだ低いことも大きな原因になっていると思います。
NCCは今年もワクチン推進運動に力を入れます。
(2001年2月15日)