僕のズボンは膝のあたりがいつも汚れています。泥がついていることもあります。クリーニングに出しても、3日ともたず、また汚れてしまいます。診察の時に、こどもたちの靴やサンダルで蹴られるからです。
こどもたちの喉や耳の中をのぞき込んで見るとき、ワクチンの注射をする時、嫌がるこどもたちは全身を使って必死で抵抗するのですが、足も大いに武器として使います。それで、僕の膝のあたりがいつも標的になるわけです。雨の中をお母さんと長靴で歩いてきたこどもに蹴られた時などは最悪です。
白衣を着ればいいのでしょうが、開業以来僕は白衣を使わないことにしています。それは、こどもたちに恐怖感を与えないようにしたいこと、お母さんたちに対しては権威を感じさせないようにしたいことが理由です。白衣を着ても着なくてもこどもたちの恐がり方に差はないという研究もあるようですが(こんな素晴らしい研究もあるんですね)、白衣を怖がるこどもがいることは事実です。ですから、NCCに初めて来て上手に診察させてくれたわが子の姿に驚いて、「以前の病院では、先生を見ただけで泣いて診察させなかったんですよ」というお母さんの話を時々伺います。
お母さん方にとっては、気軽に相談を持ちかけたり、子育てについての雑談もできるような存在でいたいと思っていますので、権威や威厳を感じさせたり、怖がられることがないように気をつけています。白衣を着ないのはそのためでもあります。でも、自分で心配するほど、権威や威厳といったものは僕にはないようですが・・・
それじゃ、こどもたちに靴を脱いでもらって診察室を土足禁止にすればいいじゃないか、と言われる方もあるかもしれません。でも、それではバリア・フリーになりません。診療所の設計に関しては、建築事務所とずいぶん議論をしました。暖房つきのコルク床など、すごく魅力的な提案もありましたが、結局僕はバリア・フリーにこだわりました。障害をもったこどもたちが車いすのまま玄関から診察室までスムーズに入ってこれるように、段差をなくし、ドアは全部開き戸にし、土足のまま移動できるようにしたかったのです。これは、障害をもったこどもたちだけでなく、バギーを使用中の乳幼児に関しても必要な配慮だと思ったからです。
というわけで、ズボンが汚れるのは承知の上のことでした。泣き叫んで診察させてくれないこどもたちも、じきに自分から「あ~ん」と口を開けて上手に診察させてくれるようになります。これも、僕の楽しみの一つです。ですから、こどもさんが靴でぼくのズボンを汚しても、お母さんは気の毒がることはありませんよ。
(2004年1月19日)