すっかり夏めいて来ましたが、今年は変な年です。1月末までインフルエンザが出なかったので、今年は流行はないかもしれないなどと一部では言われていたのに、2月からはB型が先行する形でA型、B型入り乱れての大流行となりました。そして5月中旬になってインフルエンザの流行がやっと終息かと思いきや、今度は一気に夏かぜが出始めました。どの季節も、感染症から身を守るため、食事の前や家に帰ってきた時には手洗い、うがいをする習慣をつけましょう。
さて、今回は診察室での話です。診察室の中で、こどもさんをしっかりと固定してもらわないと困ることがあります。じっとしていてくれた方が十分な観察ができるのは当然ですが、皮膚の状態を観察したり、聴診器で呼吸や心臓・腸の音を聞くときくらいなら、多少動いていても何とかなります。でも、舌をおさえるへら(舌圧子「ぜつあっし」と言います)を使ってのどを観察する時、耳鏡やファイバースコープで耳の中や鼻の中をのぞく時、ワクチンを注射する時などに、こどもさんが暴れたりすると、下手するとけがをしてしまいます。当院でも、耳鏡で外耳道が切れて出血したことが一度だけありましたし、せっかく皮膚に入った注射針が抜けてしまって刺し直すようなこともたまにあります。このことはお母さんたちにもしっかり知っていてほしいと思います。
それで、保護者の方と看護師の二人がかりでこどもさんを固定することになるわけですが、時々保護者の方の固定が甘すぎるために、診察中にこどもさんが体の向きを変えてしまったり、床にずり落ちてしまったり、こどもさんの手が舌圧子やファイバースコープや注射器に伸びてきたりすることがあります。僕はヒヤッとして、冷や汗がタラリと落ちます。なかには、1回の診察中に何度もこどもさんを抱き直すお母さんもいます。
力のある小学生たちは、「じっとしとかな、危なかばい(じっとしておかないと危ないよ)」と言えば、たいていはじっとしてくれます。でも、小さいこどもさんにそんな理解力はありません。腕ずくでしっかり固定してあげるしかありません。こどもさんをまっすぐ僕に向け、お母さんのおなかや胸にこどもさんの体を密着させて、手が上に上がってこない姿勢にして、しっかり抱きしめてあげればいいのです。中途はんぱな固定が役に立たないことは、上に書いた通りです。しっかり固定してもらえば、要領よく診察がすむし、やり直しをする必要もないのです。
こどもさんの固定がうまくできないお母さん。かわいいわが子が泣くのを見るのは忍びない、泣かせたくない、押さえつけるなどしたくない、と感じていらっしゃるのでしょうか?でも、あなたがしっかり抱きしめてあげないために、診察される時間が不要に長びいて嫌な思いをしたり痛い思いをするのはあなたのお子さんですよ。
必要な時には、嫌がってもしっかりと抱きしめてわが子を守ってあげるのも愛情です。子育てにも通じる話だとは思いませんか?
(2005年5月28日)