私たちのNCCにはユニークな面がいろいろありますが、診察室の真横を電車が通るというのも非常に珍しい診療所ではないかと思います。
それも、電車が建物に平行して走るのではなく、ちょっと交差するような角度で建物に向かってきますので、結構迫力のある電車の姿が目の前に見えるのです。
診療所の場所選びをしている時、現在地の話を聞いてまっさきに思ったのが「診察中に電車がすぐそばに見える!」でした。また、弟が和白小学校に通っている頃、電車が止まるところを見たくて線路にタマネギを並べ、母が学校に呼び出された事件を起こした場所のすぐ近くであったのも、何かの因縁かなとも思いました。(こどもたちはまねをしないでね。弟の名誉のためにつけ加えれば、その弟は反省して悪いことはやめ、今では立派な大学の先生になっています。)
僕自身乗り物は大好きで、車でも電車でも船でも飛行機でも、動いている乗り物を見ていて飽きることがありません。高校生の頃まで、飛行機を設計する仕事をしたいなあという気持ちもありました。
うちの長男の1~2歳頃の就眠儀式は乗り物の絵本でした。それも、いつも同じ絵本の同じページです。ひとりでふとんに入り、両手で絵本を顔の前にかかげて、じっと絵を見つめ始めます。そのうちに、そのまま絵本を顔の上にのせてスヤスヤと眠ってしまうのです。親にとってはありがたい絵本でした。
電車が通っていくのを見るときのこどもたちの反応を観察するのは、NCCでの僕の楽しみのひとつです。目を見開いて「あっ」と声を出す子。手を振ってバイバイをする子。診察されるのを嫌がって泣いていたのに、ピタッと泣きやんでしまう子。指を指して僕に電車が通っているよと教えてくれる子。慣れたこどもは診察室に入ってくるなり「電車は?」と聞きます。電車を見るのを楽しみにしているので、診察が終わっても診察室を出たがらない子もいます。
電車の呼び方もいろいろです。たいていは「デンシャ」ですが、「あっ、西鉄電車」と言う子もいますし、中には「宮地岳線」という子もいます。
こどもたちは、ほとんど例外なく乗り物が好きです。最近はどこに行くにも車を使って移動することが多いと思いますが、たまには親子で電車に乗ってお出かけしてみたらどうでしょうか?いつもとは違う乗り心地や車窓からの風景を経験したこどもさんとの会話は、きっとはずむことでしょう。また、お年寄りや障害をもった方たちに席を譲るマナーなどを教えてあげる機会にも巡り会えるかもしれません。
夜遅くにパソコンに向かってこんな文章を打ち込んでいる時にも、仕事を終えて家庭に帰るお父さんやお母さんを乗せた電車がゴトゴト走って行く音を聞くと、この場所を選んで良かったな、と思います。
(2001年5月15日)