NCCの待合室にはいろんな音楽を流していますが、今回はそのやりかたとその背景にある僕の音楽史を紹介します。
待合室で音楽を流すアイデアは開業を考えた時からありました。皆さんが診察を待つ間にも少しはくつろいだ時間が持てるように、欲を言えば待合室も心が癒される空間になるようにと願ったからです。何しろ音楽療法という治療法があるくらいですから、音楽の効果は馬鹿にできません。
始めは有線放送も考えましたが、やめました。皆さんに聞いて欲しい楽曲を自分で選んで、多少はメッセージを込めた組み合わせで流したいと思ったからです。それで、5枚連奏のCDオートチェンジャーを置くことにしました。スピーカーも結構いい物を天井に3台埋め込みました。誰もいない夜の待合室は、ライトを消しボリュームをあげて「アベ・マリア」を流すと、妙なる調べが繊細に漂う僕だけのコンサートホールに変わります。
1週交代のCDメニューは、毎週土曜日に翌週分の5枚を選びます。ヒーリング系、クラシック系、ジャズ系、ポップス系、カントリー系、童謡などから、特定のジャンルに偏らないように考えながら、組み合わせます。僕の好きな弦楽器(特にチェロ)のCDと、優しいボーカルが入ったCDは必ず1枚ずつ入れます。10~20分の作業ですが、僕にとってはとても楽しい時間です。
以上が舞台裏ですが、これまでにお母さん方にCDのことをお誉めいただいたのは3回だけです。
僕の音楽好きは中学1年、ステレオを買ってもらった時に始まります。初めて買ったレコードは、「10番街の殺人」(ベンチャーズ)、「ラブ・ポーションNo.9」(サーチャーズ)、それに加山雄三のアルバム「ハワイの若大将」です。もちろんビートルズも大好きでしたが、高1頃からはクリーム、レッド・ツェッペリンといった前衛的なロックに走り、エリック・クラプトンはクリーム時代からずっとファンです。高校卒業前に早熟の友人からジョン・コルトレーンのレコードを借りて衝撃を受け、大学に入ってからはジャズ喫茶に入りびたりでした。大学時代は、コンサートにもよく足を運びました。レコードでは味わえないライブの素晴らしさを知ってしまったからです。主にジャズですが、クラシックや津軽じょんがら三味線なども聞きに行きました。東京での貧しい研修医時代でさえも、何とかお金を工面して寅さんとジャズのディナー・ショーに行ったりしていました。30代ではクラシックのプロモーターをしているテニス友だちができ、そのつきあいでクラシックのコンサートに行く機会が増えました。もともとクラシックには興味がありましたので、10年ほどクラシックをかなり聞きました。九州交響楽団の定期会員にもなっていました。ヨーロッパに旅行したときも、毎晩コンサートに行くのが楽しみでした。そして40代になってからは、カントリーミュージックまで手を広げました。カントリーはいわばアメリカの演歌ですが、熊本のカントリー歌手チャーリー・永谷さんとの出会いはカントリー熱に拍車をかけました。また、「シルクロード」(喜多郎)はヒーリング・ミュージックへの入り口になりました。日本の音楽では、井上陽水、玉置浩二、桑田圭祐、Jay-Walk、ゴスペラーズがお気に入りです。
これからもNCCではいろんな音楽を流します。こどもたちには、いろんなタイプの音楽があることに気付いて、興味を持って欲しい。そして、音楽を友だちにして人生を豊かにして欲しいと思います。
(2002年2月16日)